舞さんからのメッセージ
 

 

 舞さんからファンのみなさんへのメッセージ(2002.7.20掲載分)です。

 

 

 夏休みに入りました。読響さんとの演奏会が近づいてきたので、ハープの前に座る時 間が圧倒的に多くなってきました。最近はずっとお一方?お客様がいらっしゃって練 習の間中近くに居られるのですが、その方はどうも私の演奏を楽しみにしているとい うより、私の演奏が終わるのを楽しみにしていられるようで、複雑な思い(笑)で練 習に励んでいます。常々、クラシックの演奏会は、もう少し、リラックスして聴いて 頂けたらと思っておりましたが、そのお客様はあまりにリラックスなさり過ぎで、練 習する手を止めて、一人、込み上げる笑いをこらえております。最初は多少の気遣い も見せて下さって、美しい姿勢で背筋をのばして、耳をピンと立てて聴いて下さって いるのですが、そのうち、正しい「ふせ」の姿勢になり短い足を顔の横にぴたっと付 けて、上から「ふた」のように被さってくる上目蓋と懸命に戦いつつ、何とか楽しい 機会を逃すまいとしていられるのですが、その戦いに敗れると、あとはもうすっかり、 自分一人?の世界で、そこは言い匂いの食べ物や緑の野原なんかが広がっているので しょうか?床に付けていた白いお腹はすっかり天井を向き、後ろ足は、宙に放り出さ れた状態から伸びきって床につけられ、前足は夏のお化けみたいに「うらめしや〜」 の格好をしています。あまり動物が無防備にお腹をさらすものではないと思うのです が、一度、自分の夢の世界に入り込んでしまった後は、どんな敵が襲撃してこようが、 おかまいなしに、白い喉元まで見せつけて、眠りを楽しんでいられます。短い休息時 間が終わると、今度は私がオーケストラとの合わせの練習の為にかけたCDプレイヤー の音が気になられるようで、最初、離れた所から、様子を窺っていられるのですが、 少し又、少しと、距離を縮めて、とうとう、スピーカーの真ん前まで行かれて、不思 議そうに、首を捻っておられます。ですが、どうにも理解できないと思われたのか、 諦めると、又、いつのものように、ハープのペダルの臭いをかぎ、ちょっと舐めてか ら、自分のお席に戻られます。このお部屋からちょっと距離はありますが、お客様用 のトイレをご用意させて頂いているのですが、ご利用いただけた時に、感謝の気持ち から褒めてさしあげると又、次回も御利用頂けるのですが、たまに、それを怠ります と、ピアノの下ですとか、ハープの近くなど、御自分?の自由な発想で、自由な空間 を利用して、目的をお遂げになります。誰かが、人様の迷惑を顧みずに自由に振る舞 うという事は、どこかに、不自由な人間が出てくるという事で、私は、「黄色い水た まり」に足を踏み入れないように、歩く時に何処か常に緊張を強いられております。
 と言う訳で、我が家の龍之介は健在ですが、実はこのワン子は私の家にずっといる 予定ではなく、私のジジ、ババのボケ防止の為にやって来たワン子で、別れの時が迫っ てきています。あの、ゴムでできた、「ぶた」を噛む時鳴る、ピュ−ピュ−という音 が聞こえなくなったら..朝、「おはよう」のかわりに、膝にかき上がって、髪の毛 の中に鼻を突っ込んで、ついでに耳を噛む、あの、悪魔のような天使がいなくなった ら、(舐められてべたべたになった顔を、何度も洗う必要はなくなりますが)・・・ ちょっと想像できません。
 前回、私がやりたい事がなくなったと書いたものですから、皆様に御心配頂いてあり がとうございます。毎日の大学での生活がとても充実していて、時に実習で遅くなっ た夜など、その日、わいた疑問点など、本を広げて調べる事は苦でもなんでもなくて も、マンションの狭い防音室で、重たいハープを肩にもたせかけるのが、とても辛い 事があります。
 大学で勉強した事で、せっかく気分が少し、高揚している時に全く別のハープを何時 間か練習するという、ある意味、肉体労働をする必要があり、弾くという事に、集中 しなおさなくては、ならないのに、それに必要なエネルギーが不足している時があり ます。言われているように、モチベーションが高ければクリアできる事かもしれませ んが、単純に疲れているという事もあるかもしれません。
 ハープにはどうしても、やっかいなペダル操作という手間があります。ドの音からシ の音まで、足下に7つのペダルがあり、それぞれのペダルは、一番上に上がった状態 の時はフラット(半音下がった状態)一段目に入れるとナチュラル、二段目に入れる とシャープ(半音上がった状態)になります。このペダルは、次の瞬間に例えば、ド の半音上がった音が欲しいという時、そこで、踏み替えると大変な事になります。指 が弾いている音と同じ音のペダルを同時に踏むと、当然、とんでもない音が出てしま います。
 つまり、私が、今きれいなドのシャープの音を出したかったら、それより、前の段階 で、指がドの音を弾いていない瞬間を狙って、ペダルを予め、踏み替えておく必要が あり、音楽に没頭しながら、常に頭の中で何処でそれをやるか、計算しなくてはなり ません。今、出したい音とは全然関係のない所で、ペダル操作を行います。音楽を人 に聴いて頂く時はどんな方でも、その音楽に入り込んでいるようで、何処か冷静に自 分を客観視している部分があるのだと思いますが、他の楽器に比べると、そのペダル 操作の部分だけ余計に、冷静な所が必要になってくるような気がします。それともう 一つ、これはハープを弾く方は徐々に、当たり前にできるようになっていく事ですが、 ピアノのように、今出す音の鍵盤の上に指を乗せるという事の他に大切な事があって、 それは常に今出す音の次の音を指で捉えていて、その次ぎの音を捉えている指を支え に「今」の音を弾くという事です。弦をはじくのに、支えがなくては弾けないので、 どうしても未来の音の弦の上に指がすでについていて、支えにならなくてはハープは 弾けません。ハープの面倒さは、「今」の音を出しながら、常に先の音の為の準備を しなくてはならない事にあるのかもしれません。
 やる事がなくなったなんて贅沢を言っている私に、温かい言葉を沢山かけて頂けて幸 せだと思います。ハープではすでに、色々な経験をさせてもらったし、学校の勉強は 人の命に関わる事なので、学ぶ以上、こつこつと大学の勉強一筋に、頑張らない といけないのではと考える時も正直いってあります。中でも特にハードな科目の試験 の直前にこれ又今だかつてない程のハードな演奏会があり、そこを自分がどう乗り切 るのか、今から胃が傷みそうなものもあり、気弱になるなんて事もたまにあります。 どんな方でもお仕事で、こんな事できるのか?というような事をやり遂げてきた方は いっぱいいらっしゃると思います。私もやり終えて、早く、ガッツポーズをとりたい なあなんて思います(笑)。
 絵画に関しては、自分も今、とても興味があります。と言っても私はまだまだ、何も 分かりませんが、本当に良いものは、絵から気魄のようなものがびんびん伝わってく るものなのですね。絵の前に立って、それを感じとっている方達も、きっと、自分の 中に本質を見抜く力のようなものを持っているのではないかと思います。それは、評 論家がどう言ったとか、少し芸術の素養があるとかないとかではなく、全然、畠の違 う勉強や仕事をしていても、自分の言葉で喋れる人達なのではないかと思います。世 間ではとか、一般にはとかではなくて、自分の中にちゃんとした、「自分は..」と 言いきれる強さを持っているように見えます。そう考えると、前に名前の出ていたフ ジコ・ヘミングさんは、ほんとうに凄い人なんですね。そこらへんの事を超個 性派ぞろいの大人を相手に語っている、高校生とか、大学生とか・・日本もまだまだ、 潰れないですね(笑)。
 高校の頃、あまり喋らなかった同級生が書き込みをしてくれていて、懐かしかったで す。数学のセンスが抜群にある人で、そういう人はえてして、文を書くのは好きでは ないでしょうが..ありがとうね。
 それでは、今日はこの辺で失礼します。

竹松 舞

(2002.7.20掲載)

 

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