舞さんからのメッセージ
 

 

舞さんからファンのみなさんへのメッセージ(2002.7.6掲載分)です。

 

 

 踏み慣れた木の階段を3段上がって玄関の少し錆びかかった金色の取っ手に手をかけ て、ドアを開けると、茶色い毛の固まりが、猛ダッシュで私に飛びかかってきます。 びっくりしてひざまづいた私の足の上をかきのぼり、そのざらついた舌で鼻の回りを 嘗め、顎をかるく噛み、まだ生まれて3ヶ月しか経っていないのに、もう何年も前か ら私を待っていたみたいに、膝の上で大騒ぎをして、歓迎してくれたワン子、それが 我家の龍之介であります。恐れ多くも、芥川龍之介様からお名前を頂戴いたしまし た。
 将来、素晴らしい物書きになれるとは、到底考えられないのですが、せめて、家中ト イレと考えるのだけは止めていただいて、ダメと言われるのを知りつつ、私の足の近 くに取って来たボールをわざと落とし、口元が滑ってしまった「ふり」をして、ボー ルを噛んでいた歯を、ちょっとだけ私の足の指にあてるのを、止めてくれると嬉しい のですが……ふうっ……。彼は、ハープの練習中に部屋のドアに自分が通れるだけの 隙間を見つけたら、その短くて毛むくじゃらの足で飛んできて、入り込み、少し、 白っぽい毛の混じった、これ以上短くできないくらいのシッポとも言えないシッポの付い た、マリリンモンローばりのお尻を振りながら(これが本当に色っぽいお尻をしてい るんですよ)、耳をぴんと立て、ペダルの回りをうろつき、匂いを嗅ぎ、ちょっと嘗 めてから、部屋の隅へ行って伏せて、こちらをじっと上目遣いで見ながら、ひたすら 自分にお声がかかるのを待ちます。彼の特徴は何と言っても、その上目遣いです。視 線をそらさず、じっと見てくるので、こちらの考えを全て見すかされているようで、 なんだか落ち着かない気分になります。 犬にとっては、音楽は五月蝿いだけらしい ので、きっと「早く止めないかなあ」と思っているのでしょう。
 大学の実習では、兎ほどに心を痛める動物を使う事はここの所なかったのですが、先 日の実習は私達の班は、担当の先生を大分疲れさせてしまったようです。それは、M ちゃんがまず、カエルの箱をひっくり返した事から始り、(当然、カエルはそこ、こ こに、飛び跳ねて、自由を謳歌しようとします)又別のMさんが、メスシリンダ−を 割り、それから、T君が、浸透圧計の針を折ってしまったのが、とどめとなりまし た。 「言いたかないけど、この浸透圧計は100万円くらい、するんだ」と、先生が嘆い ていました。どたばたもありつつ、私はカエルの神経をきれいに取り出す事に、面白 さを感じてしまって、掲示板で書いて下さっている方がいましたが、「慣れる」とい う事の恐さを、考えなければと思います。
 ジャケット撮影を学校が終わってから夜7時スタート、六本木のスタジオで行いまし た。カメラマンさんとメークさんは、どちらも子供さんがいる30代の方達で、とて も和やかな雰囲気の中で撮影が行われました。最初はあたりさわりのない、ハープの 会話をしながら、女性のメークさんが、撮影前にメークをして下さるのですが、私 が、学校の気分を引きずったまま、スタジオに入っているので、話は、もっぱら、上に書 いたような会話になっていき、時々、様子を見に来るカメラマンさんは、この手の話 が、とても苦手な方なので、会話に加わっては「俺はやっぱり、こういう話は駄目 だ」と言って、去っていきます。デザイナーの方は前回と同じ方で、この方も、この事務 所の方も皆さんとても良い方達です。
 デザイナーさんは、今迄のCDで、色々変わってきました。最初は女性で、コロムビア の仕事はポップスもジャズもやってこられた方だったと思います。「月の光」の時の デザイナーさんは、私と同じ年の男の子供さんがいる方で、宮崎駿さんの弟さんでし た。話題が飛びますが、有名人の家族という話では、去年のクリスマスコンサートの 時、一緒に、チェロを弾いて下さったのは、最近お亡くなりになられた、山本直純さ んの息子さんでした。直純さんの映像をテレビで拝見して、あまりに、息子さんの キャラクターがお父様そっくりで、驚きました。「大きい事はいい事だ」ってあの事だっ たのだと、初めて知りました。息子さんは、とても楽しい人です。
 コロムビアのディレクターさんとは、もう長くて、クラシックのCDを出している中で は、私は一番年下かもしれませんが、一番長く付き合っていると思います。途中、 別のレーベルの社長さんからお誘いがあって、移る事も検討したのですが、やっぱり 居心地が良さそうなので、つい長くなってしまいました。
 次、ハープで何をしたいのかと考えた時、今は何も浮かんできません。フランスまで 連れて行ってもらってコンチェルトを録ったし、日本でもトップクラスのオーケスト ラと、これも又コンチェルトの録音ができたし、今回は、好きな曲ばかり集めて、好きなよ うに録らせてもらったし、なんだか、やりたい事がなくなってしまいました。そんなこ んなで、過去を振り返ってみるに、私はレコード会社に対して、非協力的だったと反 省する事ばかりです。今思うと、よくあんな事言っちゃったなあと思うのは、私が1 6歳で始めてCDを出した頃、ちょうど、有名なクラシックの某音楽番組の司会を長く やってこられた、有名な音楽家が亡くなられ、ディレクターさんなど、皆さんびっく りなさって本当に困っていらして、急きょ有名なEさん(私はあの方が、何が本職な のか、よく存じ上げていませんが、作詩をされたり、ベストセラーになった本を出さ れたり、ラジオ、テレビの番組をもたれたり)が司会をする事になり、そのアシスタ ントをやらないかというお話がありました。高校の帰り、東京駅のホテルで、 制服のまま、レコード会社の方と、ディレクターさんとお会いして、その後、 番組の収録を見せていただき、楽屋でEさんと、その時は指揮者の秋山さんが いらっしゃってお会いしました。
 その時、私が何と言って帰ったかと言うと、「その役をやっている自分は想像もでき ませんし、勤まるとも思いません」です。今思えば、何もこんな言い方しなくてもと 思うのですが、人にどう思われるか考えずに、思ったままを口にしてしまうのが、私 なんですねえ……。でも、このディレクターさんは、プロデューサーになられていま すが、今でも優しい方です(笑)。その後も上げたらきりがありません。本当に宣伝 部の方もよく我慢して下さっていたんだと思います。
 もうすぐ死にそうな文を書いていますが(笑)、たま〜〜〜に、「私は自分一人で、 頑張って生きているような気分になっているけれど、あちこちでお世話になった人 に、『ありがとう』という気持ちをもたずに、独りよがりにやってきたんじゃないか」っ て、考え出すと、夜眠れなくなってしまう時があるんですね。やっぱり何といっても 一番申し訳なく思ってしまうのは、親なんですけど。これ以上の存在はないと思いま すが、何をしてもらっても、当たり前と思ったら駄目ですよね、反省、反省。
 やらなければいけない事は沢山あるのですが、自分の中で色々な迷いがあります。で も、きっとこの先、何年生きても、迷ったり、悩んだり、不安になったり、そして 又、元気になったりの繰り返しでしょうから、気にせずやっていこうと思います。 あ〜でも人間に生まれなければ、あれこれ考えずに済むのですが……
 脳解剖の実習がはじまります。

竹松 舞

(2002.7.6掲載)

 

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