舞さんからのメッセージ
 

 

 舞さんからファンのみなさんへのメッセージ(2004年9月11日掲載分)です。

 

 

 あれ程疎ましいと思っていた夏のうだるような暑さを、気がつくと、ふと懐かしく思っ ている瞬間があってびっくりします。無口な秋は黙ってそっと、いろんな隙間から入っ てきます。時々見かけた蝉の抜け殻は沢山の靴に踏み荒らされて土へと還っていく事 でしょう。秋の虫はやけにすまして鳴きます。ちょっとクールです。
 私のこの夏の最後のドタバタはクールなんてもんではありませんでした。時間との戦 いは何度も繰り返してきたつもりでしたが、今回はその中でもダントツ一位だったか もしれません(笑)。最大の誤算は米国で試験勉強をするつもりが、殆どその時間が 取れなかった事です。朝7時半から子供病院の外来に飛んで行き午後からは研究室で 毎日毎日マウスの心臓の切片を作っては眺めていました。それが終われば、寮へ飛ん で帰って、ハープの練習をして、後は明日の為に循環器の勉強をするというのが精一 杯でした。最後に気が付いてみれば寮の仲間とは、みんな仲良くなっていたのに、初 めは楽器の音が煩いと苦情が出たらどうしょうとヒヤヒヤしていました。そう言えば 別の部屋でバイオリンを練習している人もいたなあ〜。音楽とは全く関係のない世界 なので、勿論レコーディングの時のように自分のハープを空輸する訳ではなく、シカ ゴから自分のものと同じメーカーのハープが数時間かけて運ばれてきました。まあ過 ぎてしまえば楽しい日々だった訳ですが、いつ行っても自分の足りない部分を思い知っ ては帰ってきます。それでも一度目よりはニ度目。カンファランスの間に交わされる 会話の中で使われる略語がやっと理解できるようになりました。カンファランスでは、 内科外科、両方の医者が集まって患者さんの治療について話し合います。その時、血 管や心臓の部位の名前を、みなアルファベットの2文字で言うので、去年は「略さな いで全部言ってくれ〜」と心の中で叫んでいました。いろんな2文字が飛び交うのに、 やっと慣れました。今年はパトリックの指導がなかなか厳しいもので、午前中の外来 での患者さんについて、午後研究室で繰り返し繰り返し質問され、ちょっと辟易して いました。結局彼の言いたかった事は徹底的に分かるまでやれという事でした。それ に気付いた次の日からは、他のドクターを質問攻めにしてしっかり理解できるまで勉 強させて頂きました。午後は午後で、細かい所まで厳しく指導されるので、ある日我 慢の限界がきて「こんないい仕事をしているのに、もっと誉めてくれてもいいじゃな いか」とパトリックに喰ってかかりました(笑)。彼が「自分は見込みのない奴には 一分だって時間はさかないんだ、一言も喋らないんだ・・・・」と話し始め、気分は 全快となりました。私って単純です。人はともかく気分が大事です。たとえ嘘でも期 待されていると思うと、頑張っちゃったりします。でも何かをする度、己の足りない 所を知らされる訳でして、だから、その時は落ち込んでも、足りない所を埋める為に 前へ進めるのかもしれません。
 ああ、そうそう、アメリカの子供病院って、診察室の中にバスケットのゴールまであっ てお部屋全体がとても可愛らしくレイアウトされています。エレベーターの声も「上 へ参ります」とか「ドアがしまります」とか子供の声で言うんですよ。とても可愛い です。
 そんなアメリカでの日々が終わり、気が付いてみると「日本だ嬉しい」などと思った のも束の間。目前に迫っていた試験の範囲が膨大で、気分が悪くなりました。気が付 けば試験の日の朝、新聞配達のバイクの音で「アチャー」と思い、カラスが鳴き出し て「鳴いちゃったよ」と睡眠は諦めたのでありました。結局無事に危ない橋を渡り終 え、次の山が又目前という訳なのに、ハープをシカゴに返してから、我家に付く迄の 2、3日のブランクがたたったままの私の指は感覚がもどりきっておらず、気分だけ が焦る焦る。時間は無いし、いつもの自分ではないし・・。結局、弾く事で少しずつ 戻ってきた感触に助けられ、落ち着きを取り戻し、感覚が戻ったのは演奏会の前日、名 古屋に経つその日の夕方でした。コンサートは本当に久しぶりの岩城さんの指揮で行 われました。私は10代の頃、岩城大先生に、コンサートをご一緒する度に育てて頂い た部分が多分にあり、他の指揮者の方のように、こちらから我が儘をいう事はまずあ りません。でも前にウィリアムベネットさんとモーツァルトを演奏した時にベネット さんはフルートですから、ゆっくりのテンポは息がきついというので、3楽章を早く したがっていて、私が一人で弾きはじめる所から、私に勝手にテンポを上げていけと 耳打ちをするので、岩城大先生のタクトより早く突っ走った事があります。申し訳な いですが、ちょっと楽しい思い出です。そんな岩城さんやコンサートマスター(どこ の国の方か分かりませんが)がかけて下さった言葉や雷の中来て下さった大勢のお客 様の温かい拍手や笑顔で、又頑張ろうかなと思う私です。本当にどうやって帰られる のだろうと心配になるような遠くから来て下さった方もいて、私の方が反対にパワー をもらいます。次の日の朝早くから授業があるので、途中でも帰れるようにという事 で、色々気を使って頂いていました。ですから来て下さった方に演奏後に直接お会い する機会はありませんでしたが、演奏前にオーケストラの事務局の方から「お客様の 為にアンコールは是非お願いしますね」と念を押されたので、一人で泉を弾かせて頂 きました。結局、岩城さんの振るものは最後まで聴いていようと思い楽屋のテレビで ステージを写していると部屋がぐらぐら揺れ出しました。心配になって舞台の袖に行っ てみると、スタッフの方達もあわてていて、演奏をストップする事にきめたようでし た。他の楽器の方は気が付かずに弾いていたみたいですが、さすがにひな壇の上の方 にいるティンパニー奏者はグラグラ揺れて大変だったようです。再度初めから演奏は 行われ、無事全て終了となりました。
コンサートの日は雷がなり、地震がきて、最後は新幹線が遅れ、危ない一日でしたが、 夜中に東京に着き、しっかり学校に間に合いました。私が経った後のセントルイスは ハリケーンのフランシスに襲われたようで、私はラッキーなのかもしれません。
そんな訳で私は元気です。今はとにかく本の続きが読みたいです。それではごきげん よう。

竹松 舞

(2004.9.11掲載)

 

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