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ママと赤ちゃんの話
お母さんが、自分がママになった!という実感を持って喜ぶのはどんなときでしょう? お腹にいる赤ちゃんがお母さんのお腹を蹴るのを感じたり、超音波でお腹の中にいる 赤ちゃんの顔を見たりするときでしょうか?この赤ちゃんの顔ですが、超音波の画像 を通して見ているという事もあって本当にかわいらしい目鼻立ちの子もいれば、なか なかの強面に見える子もいて面白いです。 母乳がでるようになった時の感動も言葉では言い表せないものがあるのでしょうね!
余談ですがその母乳、妊娠8ヶ月頃から分泌され始めるのですが、そんな時、きゃあ 〜母乳が出るわぁ、などと喜んで母乳を絞り出したりしてはいけません。お乳を絞り 出すと、お母さんの体はもう赤ちゃんが生まれてお乳を飲んでいると錯覚してしまい ます。ならば大きく膨らんでいた子宮を元に戻さなきゃと言って子宮を収縮させ始め てしまうのです。でもこのお母さん、まだお腹に赤ちゃんがいます。収縮なんかされ たら赤ちゃんが外に放り出されてしまいます。だからしぼったらいけません。
お母さんというのは、赤ちゃんに血液を送っているのでとても責任重大です。お母さ んが飲んでいる薬などは胎盤を通じて赤ちゃんにも作用してしまうことがあります。 例えばお母さんがてんかんを持っていて抗てんかん薬を飲んでいると赤ちゃんに心臓 の奇形や、口の奇形(いわゆる三つ口などです)が生じてしまう危険があります。ま たお母さんが甲状腺の機能亢進症で、治療薬として抗甲状腺剤を飲んでいると、これ も胎盤を通過してしまうために正常な赤ちゃんの甲状腺の機能まで低下させてしまい ます。またバセドウ病などの甲状腺機能亢進のメカニズムとして、甲状腺のレセプタ ーにはまりこんで甲状腺に働くようにどんどんウソの情報を与え続ける厄介な抗体を お母さんが持っていると、それも赤ちゃんの方へ流れてしまいます。その結果、赤ちゃ んの正常な甲状腺の機能が亢進させられてしまい、赤ちゃんの代謝がガンガンと盛ん になり、ベビーがあまり大きくなれないまま生まれてしまうことになります。
その他にお母さんの管理が重要になってくるのは母体の糖尿病です。お母さんは赤ちゃ んのためにインスリンに対する抵抗を高くしています。というのはどういうことかと いうと、インスリンの働きによって細胞内への糖の取り込みを抑えて、赤ちゃんに回 してあげようというしくみです。なので当然お母さんの血中にうようよする糖が増え るので糖尿病の発症のひきがねにもなりうる訳です。母体が高血糖になると胎児も高 血糖をきたしてインスリンがたくさんでるために赤ちゃんの皮下脂肪が増え、肝臓や 心臓の重量も大きくなるので巨大児になってしまいます。このために、生まれる時に マミーもベビーも大変苦労することになります。
そう、その出産ですが、赤ちゃんのデビューに相応しく、ベビーはターンしながら出 て来ます。そのターンもちゃんと頭の向きや回転するタイミングが決まっているので す。子宮からの道のりは平たんではなく、通路の幅や形がお母さんのお腹の高さによっ て微妙に違います。通路が横長の時は赤ちゃんは横を向き、顎をひいてできるだけ小 さい面積で道を通ろうとするのです。下に降りつつ、通路が円形になると赤ちゃんは 頭をまっすぐにしてお母さんの骨盤の突起にぶつからないようにします。そしてつい にゴール地点で顎をぐいともちあげて顔を出すという訳です。
と、今まで赤ちゃん赤ちゃんと言ってきましたが、そもそも赤ちゃんというのは生ま れた時に顔が赤いから赤ちゃんというのであって生まれる前は赤ちゃんじゃないので すが、まあ細かい事はいいですよね。
でも、ここで気は抜けません。赤ちゃんがおぎゃーと泣いてくれなきゃ困りますね。 赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいる時はへその緒を通して酸素をもらっていました が、外界に出ると、赤ちゃんの血中の酸素濃度の低下と二酸化炭素の濃度の上昇が刺 激となってデビュー初の呼吸をします。ですからお母さんにおへそから酸素のお世話 をしてもらっている間は赤ちゃんの首にへその緒が巻き付いていても赤ちゃんは苦し くないのですよ。私の友達も授業中に「あたし、へその緒が首に三重巻きだったらし い」ときいてもいないのにおしえてくれました。逆に首に巻き付いていなくたってへ その緒自体がねじれちゃってる方がまずいのです。酸素がスムーズに送られてこなく なってしまいますからね。
しかしながら、赤ちゃんの第一呼吸が危険な場合もあります。赤ちゃんはお腹の中に いる間はうんちをせずにためていますが、子宮の中で低酸素症になると赤ちゃんは子 宮の中でこれを排泄してしまうのです。そうすると口の中に入ったうんち混じりの羊 水を、外に出た途端に呼吸によって吸い込んでしまう危険性があります。もし吸い込 んでしまうと肺に便が入ってしまってうまくガス交換ができなくなるのです。ですか ら治療としてはできれば第一呼吸をする前に便の吸引と洗浄をしてあげます。この状 態は赤ちゃんが低酸素症になりやすい過期産(予定日より二週間以上遅れる)に多く なります。
それに対して、赤ちゃんが早めに生まれてしまっても呼吸によくない事がおきる可能 性があります。なぜかと言うと、赤ちゃんの体の中で最も遅く出来上がる器官が肺で、 その中でも重要なのはサーファクタントといって肺が縮まろうとする表面張力に対抗 して肺を潰さないようにする物質の合成です。
これが出来上がるのは妊娠の35週頃で、サーファクタントが出来ないうちに生まれて しまうと、赤ちゃんが呼吸で息を吐いた時に肺胞が表面張力に負けて潰れてしまうた めにベビーは正常の呼吸が出来ずに呼吸困難に陥ってしまうのです。
このように小児科や産婦人科の勉強をしているといろいろな病態があって、よく自分 は無事に産まれてこられたなぁとしみじみ思います。 神様とお母さまに感謝。アーメン。(2004.6.28掲載)
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