クローズアップ人体(2)
 

 
ホルモンの話

 

 

 ホルモンの話をします。フェロモンじゃありません。残念ながら。
 ホルモンと言ってもたくさんあります。脳から出るホルモン、甲状腺から出るホルモ ン、副甲状腺から出るホルモン、副腎から出るホルモン、精巣・卵巣から出るホルモ ンなどがあります。ホルモンは出た場所からたいてい遠く離れたところに作用します。

 これら全部について書きたいところですが、かなりややこしくなってしまいそうなの で、今回はみなさんにおなじみのホルモンをピックアップして進めていこうと思いま す。

 では脳から出るホルモンから。代表的な成長ホルモンについてちょっとお話します。
 成長ホルモン。ぱっと聞くと、成長するならいいじゃんって思いますよね。ところが、 ホルモンというのは出過ぎたら困るんです。フェロモンとは違うんです。成長ホルモ ンが出過ぎたら大きくなります。当たり前ですね。でも出る時期によって効果が変わっ てきます。若い時期で、まだ骨が縦に伸びようとしているときだとひたすら大きい巨 人症に、骨がもはや長くなろうとはしなくなってからですと縦軸方向への成長が制限 され、伸びたいのに伸びられなくて末端肥大症となります。

 この辺りのことはみなさんよく御存じと思います。でもこのホルモン、たくさん出る と体が大きくなるだけじゃないんです。内臓も大きくなってしまうんです。心臓や腎 臓、甲状腺が肥大します。また顔では顎や眉弓はもちろんのこと、くちびるや舌、鼻 や耳も大きくなるのです。

 ではどうして成長ホルモンが出過ぎてしまうのでしょう?たいていはこれを分泌する 細胞が腫瘍化し増えてしまうのが原因です。こんな厄介な腫瘍はいらないので治療は 腫瘍の摘出術です。でもあんまり厄介者扱いしちゃいけませんね。最近では成長ホル モンは脂肪の代謝にも大きく関わっているらしい事がわかってきています。成長ホル モンが足りないと血中コレステロール値が高くなってしまったりするのです。その証 拠に成長ホルモンが足りない低身長症(小人症) の患者さんでは心筋梗塞や脳梗塞などの血管病変による死亡率が高くなるようです。 血管病変の原因となるのは高コレステロール血症です。
 このために高コレステロール血症の方に成長ホルモンを投与する治療法などが出て来 ています。ただ、患者さんは大人の方が多いので大人に使うものに「成長」ホルモン というのもどうかというので別名のソマトメジンという呼び方で統一させようという 考え方が主流になってきているようです。

 次に副腎からでるホルモンです。そもそも副腎とは何かというと左右の腎臓の上にちょ こんと乗っかった臓器でホルモンを分泌することを主な生業としています。副腎とい う臓器は外側と内側で出しているホルモンが違います。特に外側(かっこわるいので 皮質といいますね)から出るホルモンは一つでいろんな働きをもっているためにこの ホルモンが出過ぎると体中にさまざまな変化が現れます。

 副腎の皮質はコルチゾールと呼ばれるホルモンを分泌します。コルチゾールは身体的 ストレスや精神的ストレスを感じた時に分泌され、わたしたちを助けてくれるいいひ とです。このひとがいない時にストレスが加わるとわたしたちは死んでしまうのです (どうしてなのかはよく分っていません)。またコルチゾールはブドウ糖や脂肪酸、 タンパクなどの代謝を調節してくれています。対する内側の髄質からはアドレナリン やノルアドレナリンが分泌されていて、こちらは皮質とは違って自律神経の延長のよ うな組織です。

 では、これらが異常に出過ぎてしまうとどのようなことが起こるのでしょうか?皮質 のホルモン過剰は特徴的な症状を呈するのでそちらを少しご紹介しようと思いますが、 働きを一個一個述べていくと、きっともうみなさんに読みすすめて頂けなくなるので 結論から先にいいます。

 Cushing症候群と呼ばれる病気になります。20〜30代の女性に多い病気です。手足は 細いのに体幹部に脂肪が集まってしまいます。この体幹には顔も含まれるのでまんま るのmoon faceと呼ばれる顔貌になります。にきびもできてきます。色素沈着が起き て、骨はもろくなり、糖尿病をひきおこしたりもします。 また感染に対して弱くなったり、性機能の異常では男性化徴候が見られます。

 このように羅列するとてんでばらばらの症状ですが、みんなコルチゾールが効きすぎ たり、他のホルモンとのバランスがくずれて出てきたものたちです。

 コルチゾールは糖を蓄えようとする働きをもっています。とにかく貯えようとする節 約けちけちホルモンです。このために何の罪もない筋肉が糖に変えられてしまいます。 体の末梢の組織にも糖を使わせないので手足がどんどん痩せ細ります。そうすると今 度はインスリンが黙っちゃいません。インスリンは御存じのように血糖値を下げるホ ルモンで、簡単に言えばコルチゾールとは逆の作用をもっています。がんばったイン スリンの効果は顔やお腹に出てmoon faceと大きなお腹を作ります。
 またインスリンに対して敵意をむき出しにしているコルチゾールのことですから当然 血糖を高くしてしまいます…糖尿病ですね。

 にきびができるのは、コルチゾールの免疫系の抑制作用によるものです。にきびも一 種の細菌感染ですからね。わたしたちのために免疫系がにきびの菌と戦ってくれてい るのに、その護衛をまあまあ、となだめてしまうわけですからにきびがたくさん出来 てしまうというからくりです。

 それから骨。骨にもケチケチします。骨を強くしようと言ってみなさん牛乳を飲まれ るように、骨をつくるにはカルシウムが必要です。ところが、腸でそのカルシウムを 吸収しようとすると、コルチゾールが邪魔をするんです。骨を作らせてくれないので 骨粗鬆症をきたします。

 色素沈着ですが、これはコルチゾールの作用ではありません。話がややこしくなりま すが、コルチゾール出まくりの状態になるのにはいくつかの要因があってこの場合は コルチゾールに出ろ出ろとせっついているACTHという名前のホルモンが多いため、ACTH の作用によって色素沈着がおきるわけです。

 最後に男性化徴候ですが、これもACTHが関係します。ACTHががんがん出ると、副腎か ら分泌されるもう一つのホルモンであるアンドロゲンという男性ホルモンの一種をた くさん出させるように働いてしまいます。そうすると、女の人では体毛が濃くなり月 経もこなくなって、声まで太くなるのです。

 このホルモンの分泌過剰症についてもホルモンを出しまくっている腫瘍を取ってしま うのが第一選択です。コルチゾールを副腎ががんがん出しているならその副腎の腫瘍 を、そして副腎は悪くないのにだせだせとACTHがうるさい場合はACTH産生腫瘍を取り ます。治療を受けて治った方は別人のようにきれいになって誰だかわからないくらい によくなるそうです。

 このように書くとかなりこのホルモンは悪者のようですが、だからと言って出なくなっ ちゃってもとっても困るのです。アジソン病というのがその代表格で、どんなことが おきるのかはCushing症候群の逆を考えてもらえばわかるのが体重減少、低血糖など ですが低血圧なども起きてきます。また血中のイオンの濃度を調節する作用ももって いるためにコルチゾールがちゃんと出てくれないとイオンの濃度の異常により悪心、 嘔吐、意識レベルの低下、下痢などを引き起こします。そして副腎皮質ホルモンが出 ないとACTHが焦ってもっとだして〜とわめくので全身に色素沈着が起きてしまいます。
 このような場合、治療は副腎皮質ホルモンを一生補充し続けます。なんでも適量がい いんですね。 と、第二回目はホルモンについて書いてみました。はたらきが色々でかなりまとめに くく読みにくかったかなと心配です。他もいろいろ練っていますが、まとまったらま た書いてみます。長々と付き合ってくださってありがとうございました。

竹松 舞 04.5.20

(2004.5.27掲載)

 

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